合い言葉GG
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☆マサコのプロフィール
13才のときにグレン・グールドのピアノに 出会う。以来抱き続けたグールドに会うという夢を追って28才でカナダへ。後追い日記はその記録である。 属性はシャーマン。 ☆ミクシに習って、ぬさんからの紹介状 不在の幻影から愛するひとを救い出し、グーグルキャッシュの中に愛のエクリチュールを刻印しつづける、GGの恋人。二人はもう触れあうことができないが故に永遠に惹き付けあうことができる、まるで恒星と惑星の関係のような、あらゆる恋人が夢見るユートピアに住むひとです。 ☆このブログの本拠地は 海峡web版 です。 グールド、並びにグールド家からのプレゼントはこちら。 グールドのサイン入りレコード もう1つのレコード グールドの本とそのメモ書き パパグールドさんのご本 ☆グールドおよび後追い日記に関係のないトラックバックやコメントは削除する場合があります。 カテゴリ
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後追い日記83年13・グレード10#グレード10 5月始めのトロントは、木の芽も出ずチューリップが固いつぼみのまま花を咲かせる気配も見せない殺風景な時期だった。中旬以降になると、夜間の冷えは温暖地育ちには厳しいものであったが、ようやく雪国にも春が来る。 2年目の5月は、アレルギーとイミグレーション(入国管理事務局)に苦しみ、今年3年目はテスト準備で、膨れ上がった頭は産み月の女性のようにパンパンだった。 「早く、早くテストが始まって欲しい」と呻いていた。何でも気にするマコは、テストも気にした。テストそのものよりはその点数を。 日本に戻るつもりはないのだから、トロントで就職せねばならない。その時のためにほとんどAを取っておかなくては。 5年間の学生生活である学期の成績をオールAにしたことがあるから、ほぼ目的を達したが、いつも死ぬ程勉強した。というよりは、普通に勉強しても死ぬように弱る体力だった。 試験場で答案用紙が配り始められると、これで解放されるとホッとした。2つの理論のテストが先に行われた。 そしてピアノの日が来た。 トロント王立音楽院はトロント大学の音楽部と隣り合わせ。試験当日、音楽部の学生が練習室を取ってくれた。 午前中、練習してから音楽院に向かう道すがら、黒づくめの服を着たグールドを見かけた。「守ってあげているんだよ」と出て来てくれたのかもしれなかったが、腕の痛みでそれどころではなかった。 その時のマコは、グールドに腕の痛みを何とかしてもらえないだろうか?とさえ思わなかった。少女時代の辛酸な経験から、神様は人間の願い事を叶えるための存在ではないことを身にしみて知っていたから。グールドが数ヶ月前、映画会場に入れてくれたことも忘れていた。 足早に音楽院に入ると世話係の女性に 「テストを受けに来たのですが」と受験票を見せる。 「4番目のスタジオに行きなさい」 マコは左から数えて4番目のスタジオに行く。いつもの練習室。若きランドフスカ夫人の写真があるので、音楽院の中でもくつろげるスタジオ。ところが、男の人がいる。 「グレード10をこれから受けるのですが」 「まだだよ。出ていって」 仕方なく、女性の所へ戻る。 「4番目のスタジオへ行くのよ」 女性の指示に従うこと3回。遂には、 「一体、何をやっているんだ」と部屋にいた男性は廊下に出てきた。 「どうなっているのかわからない」 「4番目のスタジオに行けと」 「私は右から数えて4番目のつもりで言ったの」 「私は左から数えて4番目と思ったの」 何のことはない。マコの頭は、融通の利く方ではない。部屋の中に音楽院の先生がいたら、まず試験官と思うこともなかった。ただ言われたとおりにしただけ。世話係の人の不注意かも? 夢中の時は、当たりの状況に気づくこともなかった。 右から4番目の受験生の待合い所で待つ。 マコは、楽譜を写真のように覚えられるので、譜を忘れる心配をしたことがない。どんなに手がちぎれそうに痛んでも集中力が失われると考えたこともない。ただ曲がきれいに弾けないのが残念なだけ。そのマコに、得意中の得意の曲があった。ハンス・フォン・ビューロー作曲の練習曲。これを弾くと人が唖然とするのがおもしろかった。 試験官のコーネル氏は後ろの方にいたので、首をひねってどんな顔をして聴いてくれるか眺めながら弾いた。花の粒子のようなコーネル氏のピアノの音が好きだったので、その前では安心して弾けた。 コーネル氏は、マコに見られていることも気づかない程、たまげて聴いていた。 −やっぱりだ。その人に先天的に合う曲があるのだ。自分の指の出来、気質に合う自分用に作曲されたかのような曲。これが弾きたいと先生に頼んで変えてもらった曲を弾いてマコはその時はご機嫌。 得意絶頂の曲が、音楽学校の検定テストの課題曲のひとつというのは、マコにとって本当は楽しくない。その曲は人前で弾いても、音の花束のようではなかったし、美しい詩の朗読にもなれない。 ゴルトベルクを弾いた時、マコと音楽の関わりは、こんなものではなかった。 トロントの広い空の雲の中にグールドを探しながら試験会場から帰る時、心に残るのは虚しさだった。 nextnext 83年14へ **********************************
by mhara21
| 2006-09-21 09:49
| 後追い日記83年
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